任意売却のテーマで、不動産スペシャリスト・ライフエステートが北海道新聞旭川版の取材を受けました。
不況による賃金カットや失業で、購入した住宅のローン返済が行き詰まり、家を手放すケースが道北で相次いでいる。金融機関が裁判所を通じて強制的に不動産を売却する「競売」の件数は2009年、旭川地裁管内で前年より約4割増え、競売の前段階に当たる「任意売却」も増加。
ローン条件の緩和を金融機関に相談するケースも増えているという。 (旭川報道部 藤本卓郎)
「先が真っ暗だ。今は何も見えない」。3月上旬に自宅を競売にかけられた男性会社員は、疲れ切った声で話した。
男性は約10年前、旭川市内の新興住宅地に念願のマイホームを建てた。毎月のローン返済は決して楽ではなかったが、「取得時のときの収入だと着実に返済していける予定だった」。 ところが、ここ数年で勤務する会社の業績が悪化し、男性の収入は激減。
借金が膨らんだうえ、ローンを滞納し、ついには持ち家を差し押さえられ競売にかけられた。
子供たちは大事な進学時期に差し掛かっているだけに、父親として大きなショックとやりきれなさを感じている。
「子供にはまだ、退去しなければならないことを話していません。
でも、いずれ事実を伝えなければならない。それを考えるとつらいんです」
旭川地裁によると、07年は約350件だった同地裁管内の競売件数は、
08年は約420件に。 さらに09年は前年比39%増の約590件へと急増している。
旭川市内の不動産業者は、増え始めた競売物件の特徴として、前出の男性会社員の事例と同様、「購入後10年くらいで手放すケースが多くなっている」と指摘。その背景として「旧住宅金融公庫が1999年度まで貸し出していた『ゆとりローン』と呼ばれる住宅ローンの影響が大きい」と説明する。
ゆとりローンは、比較的所得の少ない若い世代でも住宅が買えるよう、当初の5年間の返済額を少なくする内容。
ただ6年目と11年目からは返済額が跳ね上がり、例えば5年目まで毎月7~8万円だったローン返済が、6年目以降13~14万円と大幅に増える。
給与が右肩上がりの時代なら支払いは十分可能だが、道北でも金融不況や公共事業の激減により企業のリストラなどが進行し、ローン利用者の収入は不安定な状態が続いている。99年~2000年にゆとりローンを組んだ人たちは、返済額が跳ね上がる11年目以降に既に入っていることから、「競売件数は今後さらに増える」(旭川・不動産業者)との声もある。
ローンを滞納した結果、不動産業者が債権者の金融機関や保証会社の同意を得て物件を仲介する「任意売却」も増えている。
不動産仲介業のライフエステート(旭川)によると、リーマンショックが発生した一昨年の秋以降、旭川周辺でも任意売却の取扱件数が増加。
「以前は旭川市内全体で年間70~80件程度だったが、今年は少なくとも130~140件くらいになるだろう」とみている。
任意売却や競売を免れるため、金融機関にはローン条件の緩和を求める相談が相次いでおり、住宅ローンの販売件数が市内トップの旭川信用金庫には、今年に入って17件(2月末現在)の相談が寄せられているという。
相談の多くは、住宅ローン利用者や中小企業経営者の救済を目的とする「中小企業金融円滑化法」の施行を受け、「ローン返済はボーナス払いをやめ、月払いのみにしたい」という内容。同信金の担当者は「相談には個別の事情に合わせできるかぎり対応しているが、道内で今、ボーナスを払っている企業がどれほどあるのかと改めて感じてしまう」と感想を漏らした。